少年サッカー専門誌「フットボールカルテ」 2010年秋号



熱血女子コーチ

  中志津SC 太田 博子 監督

 

 最初からサッカーに興味があったわけではない。ただ、子供の成長する姿をみて気持ちが変わった。中志津SCの代表 太田博子さんはどのように子供たちと関わってきたのか。

■サッカーと関わって31年

 

 太田先生が代表・監督を務めるのが、千葉県佐倉市で活動する中志津サッカークラブ。小学校1年生から6年生まで、サッカーを通じて体力・精神力の向上を図り、集団生活による自主・自立の精神を養うことをチームの理念としている。クラブを立ち上げたのは1979年。クラブ立ち上げ前に赴任していた小学校でサッカー大会に出場することになったが、担当教師がいないため、本を読んだり研修会に参加して勉強して指導にあたった。

 

 「素人の私が指導しても子供が頑張るのが面白くなり、新しい学校に赴任したのをきっかけに少年団を立ち上げました。ただ使用できると思っていた小学校のグラウンドがダメだったので、当時の校長先生に何度も交渉して使用できるようにしたのは苦労のひとつです。

 

 少年少女(現在のD級ライセンス)の指導者の資格もとることにしました。まだメジャーなスポーツではなかった頃だったので、女性でとる人はほとんどいなかったのですが、子供たちにもきちんとサッカーを教えるには、自分も資格をとることによって基礎を勉強して子供に伝えなければいけないと考えたんです。S級のコーチの資格を持つ方に、準指導者(現在のC級ライセンス)もぜひとってみなさいと勧められて取得しました。そうしたら千葉では女性2人目ですよと言われました(笑)。

 

 準指導者をとってからは、いろいろな指導法を知り、とにかく面白くて仕方なかったです。サッカーのサの字も知らなかった自分がこんなに夢中になれる、その気持ちで子供たちと一緒にグラウンドを走り回り、一生懸命指導をしてきました。サッカーを通して、しつけを教えるのも大変でしたね。

 

 ある時6年生に1年生から3年生の面倒を見るように指導したことがあったんです。すると下級生の面倒を見ることによって周りが見えるようになり、自分の行動や言動にも責任が持てるようになって成長していったんです。サッカーを通して人の気持ちがわかるようになってきたんですね。

 

 県協会の仕事をするようになってからは、裏方のような仕事が多くなってしまい、自分でもストレスがたまっています。本来は先頭に立って大きな声を出しながらやっている方が好きなんですけど。コーチには教え子もいてクラブ自体は、私がいなくても上手く運営されています。けど、私は現場が一番心地のいい場所だと思っているので、まだまだコーチと一緒に子供を見ていきたいですね。

 

 指導の部分で、コーチに徹底してもらっていることは、子供ができないことを叱っても仕方ない。でも最低でも2つのことを教えてほしいと言っています。それは"約束を守ること""人に迷惑をかけないこと"これだけは徹底してもらうように話しています」

■サッカーをする意味

 

 長い間クラブを見ていると保護者の方の考え方もずいぶん変わってきているという。「クラブを立ち上げた頃は、子供がサッカーをやりたいと言うのであればそれだけでいいと思っている親が多くいました。今はJリーガーになれるかもしれないと親の方が熱心になってしまっています。子供に対して過剰なまでの期待を背負わせても、子供がのびのびプレーできなくなるだけです。放任すぎるのも困るけど、萎縮させてはかわいそうです。私は、子供が思い切り発散できる場所としてこのクラブが存在すればいいと思っています。

 

 私自身、教師だった親にピアノを習わせてもらい、教師になりました。音楽が好きだから学級担任として十数年務めた後に音楽教師になったんです。親が私にしてくれたように、私も子供たちの将来にできる限りのことはしてあげたいと思います。」 

 

 6年生の卒業旅行の際には、自らマイクロバスを運転して遊園地などに連れて行くという。サッカー以外の時の子供の笑顔を見ながら旅立ちの時を過ごす。

 

 「卒業して中学生になってもサッカーを続けて、クラブに遊びにきてくれるのはうれしいですね。できればそのままサッカーを続けてもらい、自分の子供を連れてコーチとして戻ってくる。そして中志津ファミリーがたくさん増えていく。そんなワクワクするような夢を見ています。」